あらすじ
約50憶年後、恒星である太陽の寿命が尽きる頃、太陽系では次なる恒星を探すべく×××達による首脳会議が行われていた。探査途中、ある星の引力によって時空間ごと墜落し、それぞれの生命体は肉体を持たされ、人間らしい振舞を求められ、また成そうとすることも小さな物語へと置き換わってしまった。
それは
「太陽系の代表者たちが一つの核家族となり、失踪したトオルを探す」という物語だった。
×××は物語完成のため、懸命に役柄に取り組む。だが、×××にとって主人公を見つける事が至上命題として置き換わり、恒星を見つけるという現実の物語は空を切り続ける。それはまるで、地球外生命体の地縛霊のように、この空間を人間として「呼吸」している。
「あの人は良い人だとか悪い人だとか保守だとかリベラルだとか男だとか女だとか可愛いだとかブスだとか頑張り屋だとか怠け者だとか好きだとか嫌いだとか成熟しているとか幼いとか器用だとか不器用だとか寡黙だとか饒舌だとか優しいとか冷たいだとか卑怯だとか誠実だとか金持ちだとか貧乏だとか使えるだとか使えないだとか真面目だとか不真面目だとか左利きだとか右利きだとか上手いとか下手だとか太ってるとか痩せてるとか若いとか老いているとか、一生懸命、一生懸命、仕分けしましてそれぞれの人間コレクションを築くわけですよ、好きになるために、嫌いになるために、誤解を生みあうために、そうやって傷付け合うことこそが関係性の醍醐味だと言わんばかりの勢いで、僕もたくさんそうやりながら19年間生きてきたわけですが、自分自身に嫌気がさすという言い方を良くしますが、つまりは、ぼくは『ぼく』というひとまずの規範から逃れたかったわけですね、ええ、だから、家族とか友達とか先生とかの作り出した『ぼく』からぼくは脱出したわけで、それが失踪と呼ばれてまた世の中の流れの中にひとまずの意味を付けられてしまうことをまたザンネンに思いますが、多少は皆が思っていた『ぼく』からぼくが去っていったことに皆びっくりして戸惑って心配してくれているんじゃないでしょうか、とぼくはまだ期待しているわけですから、そういった『ぼく』からも、また痕跡を消そうと思っているところでして、現在両手を拘束されて囚われたアンドロメダのその細胞たる星アルマクを横目に通過しました」と、トオルは言った。
本展示では「役」、「役と私」、「私という役」について、「役」の重層性に焦点をあて、3部屋を用いて「芝居」を同時展開します。(上演日時詳細)
あくまで”展示物”として、お好きなタイミングでそれぞれの部屋を巡回してご覧ください。(※芝居が行われていない間はインスタレーションの展示となります)
【第2展示室】
AREA2「内省/Introspection」
いなくなったトオルのために家族は動揺し、ぶつかり合い、それぞれの内面へとかえっていく。私たちが原因だったのか、それとも彼自身の結果のために。
【第3展示室】
AREA3「噂/Gossip」
トオルがいなくなったらしい。どうしていなくなったのかは分からないらしい。それより、オリンピックが始まったし、俺は政治家になろうと思うし、私はメダルゲームのお客さんの高齢化に驚いていて、僕は次の写真コンテストで入賞しなければただのポスティング業者のままだ。
【第4展示室】
「幽かな吐息/ Slight sigh」
トオルがいなくなったという物語を進行するための呼吸たちの物語とそれ以外の物語。
太陽(或いはその他の恒星)
トオル
主人公。明るく、皆に愛される存在であった。博愛心や正義感が強く周りに光を与える反面、自分の偏愛心や弱さなどの影をおろそかにしていた。
AREA2「内省/Introspection」
地球 チヨコ(トオルの母)
想像力豊かで包容力がある。トオルが幸せであれば良い。
火星 ミツオ(トオルの父)
情熱的で頑固で仕事熱心。落ち着きがなく独善的。トオルは初めての息子だったこともあり、将来に期待を寄せていた。
金星 サナエ(トオルの姉)
親切で共感的。トオルのことをいつも気にかけていた。彼氏のレンの依存的な性格にそろそろうんざりしていた。
水星 ツトム(トオルの弟)
嘘つき。すばしっこくておしゃべり。兄であるトオルのことは慕っていた。
月 アイ(トオルの恋人)
献身的でヒーラーとしての能力があった。トオルの相談役であり、カウンセラーでもあった。
ダイモス レン(トオルの姉の恋人)
依存心が強く寂しがり屋。トオルの事ばかりを話題に出すサナエに不満を抱いていていた。
小惑星帯 メロ(トオルの猫)
気分屋だが慧眼の持ち主。トオルの心の機微を見抜いていた。
フォボス ヨシノリ(トオルの家族を調査にきた刑事)
疑い深いが、何が起こっても基本的には飄々としている。トオルのことを何も知らなかった。
AREA3「噂/Gossip」
木星 ユキエ(トオルの祖母)
占い師であり、霊的な感性に優れる。トオルの心情や状況を占いによって導き出していた。
エウロパ リョウ(トオルのおじ)
信心深い。特に母親であるユキエの占いを信じている。トオルに強い関心はなく、ユキエの口を通して様子を伺っていた程度。
土星 ヒロシ(トオルのいとこ)
冷淡で計算高い。トオルの誰にでも明るく振る舞う姿が媚を売っているように見えて嫌悪していた。
天王星 ヒデ(トオルの担任)
人道主義的でインテリ。トオルとトオルの友人であるサトシを生徒の中でも気にかけていた。
トリトン サトシ (トオルの友人)
突飛で道化師的なところがある。トオルとは同じ野球部だった。
海王星 ユミ(トオルの行きつけのゲームセンターのバイト店員)
繊細で理知的。客として来るトオルの影に気が付いていた。
タイタン マコト(トオルのいとこの友人)
芸術性に長ける。写真家を目指していて、トオルの後ろ姿を映したことがあるが本人は知らなかった。
AREA4「幽かな吐息/Slight sigh 」
暗黒物質 通りすがりの亡霊
生前やりたかった演劇をやれずに未練がある。「劇」が始まると耳にしてギャラリー矢田にたどり着いた。